【プロが解説】腕時計ブランドの始め方|失敗しないムーブメントの選び方
これから腕時計ブランドを立ち上げようとお考えの方へ、デザインやコンセプトと並行して非常に重要な選択が時計の「ムーブメント」です。ムーブメントは、時計の精度や価格、そしてブランドの個性そのものを決定づける、まさに“心臓部”と言えるパーツです。

「クォーツと機械式、名前は聞いたことがあるけど、違いがよくわからない…」



「自分のブランドコンセプトには、どちらが適しているんだろう?」
こうしたお悩みは、ブランド立ち上げを目指す多くの方が抱えるものです。
しかし、それぞれの特性を正しく理解すれば、自ずとあなたのブランドにふさわしい道が見えてきます。
この記事では、時計OEMのプロフェッショナルである私たちが、ブランドの根幹を支えるムーブメント選びについて、「コスト」「メンテナンス性」「ブランドイメージ」という3つの観点から徹底的に比較・解説します。
そもそも、クォーツと機械式の違いとは?
まず、両者の最も大きな違いは「時計を動かす動力源」です。
reference : https://miyotamovement.com/jp/
【徹底比較】あなたのブランドはどちらを選ぶべき?
それでは、OEMで時計を製作する上で重要な3つの観点から、両者を比較してみましょう。
ブランドの事業計画において、コストは最も重要な要素の一つです。
| クォーツ式 | 機械式(自動巻) | |
| メリット | 構造がシンプルで大量生産に適しており、ムーブメント自体の価格が安い。これにより、製造原価を抑えることが可能です。販売価格も比較的手頃に設定できるため、幅広い顧客層にアプローチできます。 | 部品一つひとつに価値があり、高価格帯での販売設定が可能です。製品の付加価値を高め、利益率の高いビジネスモデルを構築しやすい側面があります。 |
| デメリット | 資産価値としては見られにくく、高価格帯での販売にはデザインや素材などで特別な付加価値が求められます。 | 部品点数が多く、製造・調整に職人の技術を要するため、ムーブメント自体が高価です。初期の製造コストは高くなる傾向にあります。 |
【こんなブランドにおすすめ】
クォーツ式
- 初期投資を抑えたい
- ファッション性を重視しデザインで勝負したい
- 20代〜30代の若者層をターゲットにしたい
機械式(自動巻)
- 高品質・高価格帯の本格志向ブランドを目指したい
- お客さんへのアピール材料の一つになる
- ムーブメントを見せるデザインを制作できる
製品を販売した後の、顧客満足度にも直結するポイントです。
| クォーツ式 | 機械式(自動巻) | |
| メリット | 精度が非常に高い(月差±15〜20秒程度)のが最大の特徴です。また、衝撃にも強く、メンテナンスは数年に一度の電池交換が基本。お客様に手間をかけさせません。 | 定期的なオーバーホール(分解掃除)を行えば、理論上半永久的に使用可能です。「親から子へ、世代を超えて受け継ぐ一本」といった、エモーショナルなストーリーを付与できます。 |
| デメリット | 電子回路の寿命(一般的に10年程度)が来た場合、修理が難しくムーブメント交換となるケースがあります。 | 精度は日差±数秒〜数十秒とクォーツに劣ります。衝撃や磁気にも弱く、3〜5年に一度のオーバーホールが推奨され、維持コストがお客様にかかります。 |
【こんなブランドにおすすめ】
クォーツ式
- 精度や手軽さを重視するブランド、セカンドウォッチやギフトとしての需要を狙うブランド。
機械式(自動巻)
- 「一生もの」というコンセプトを掲げたいブランド、時計愛好家をターゲットにするブランド、アフターサービス体制をしっかりと構築できるブランド。
ムーブメントは、ブランドの“語るべき物語”そのものになります。
| クォーツ式 | 機械式(自動巻) | |
| 訴求ポイント | ・モダンでスタイリッシュ ・デザインの自由度が高い ・高機能(クロノグラフなど) ・カジュアルでファッショナブル | ・伝統と歴史 ・職人の手仕事(クラフトマンシップ) ・ステータス性、資産価値 ・時を刻むロマン、物語性 |
| ターゲット層 | トレンドに敏感な層、デザイン性を重視する層、機能性を求めるビジネスパーソンなど、幅広い層にアピール可能です。 | 本物志向の時計愛好家、自身のこだわりを表現したい層、記念品や特別な一本を探している層など、特定の価値観を持つ層に深く響きます。 |
【こんなブランドにおすすめ】
クォーツ式
- アパレルブランド発の時計など、ファッション性を前面に出したいブランド。
- ミニマルで洗練されたイメージを構築したいブランド。
- 薄い時計が製造したいブランド
機械式(自動巻)
- 創業者の想いや歴史など、ブランドの背景にあるストーリーを重視するブランド
- クラシックで普遍的な価値を提供したいブランド。
補足】信頼性の要、日本製 vs スイス製ムーブメント
OEMで採用されるムーブメントは、主に日本製とスイス製に大別されます。どちらも高品質ですが、特徴が異なります。
- 日本製(MIYOTA、セイコー等): 最大の魅力は、圧倒的なコストパフォーマンスと安定した品質です。世界中の多くのブランドで採用されている実績が、その信頼性を物語っています。「高品質な製品を、適正な価格で届けたい」というブランドに最適です。
- スイス製(ETA、セリタ等): 「Swiss Made」という言葉が持つ、強力なブランドイメージが魅力です。美しい仕上げや伝統的な設計思想は、時計愛好家の心を掴みます。「本格派」「ラグジュアリー」といったブランドイメージを構築する上で、強力な武器となります。
まとめ:あなたのブランドがお客様に届けたい“価値”は何か
ここまで見てきたように、クォーツと機械式に絶対的な優劣はありません。
デザイン・手軽さ・コストパフォーマンスを重視し、幅広い人々に届けたいなら「クォーツ式」
物語・伝統・所有する喜びを重視し、特定の価値観を持つ人々に深く届けたいなら「機械式」
私たちはお客様のブランドコンセプトやご予算を丁寧にヒアリングし、数あるムーブメントの中から最適な一つをご提案することを得意としています。ムーブメント選びで迷われたら、それはブランドの個性を明確にするチャンスです。
ぜひ一度、あなたの思い描く時計のイメージを、私たちにお聞かせください。
専門的な知識と経験で、あなたのブランド作りを全力でサポートいたします。



